ワインをがぶ飲みしているタプタプの僕の腹に、パンチがまともに入った。ふざけてるにしては、威力がありすぎだよ。おい。「グッ…この野郎」顔をあげると、TVでよく見かけるタレントのAがニヤニヤ顔で立っていた。「最低だ。テメーはよぉ!」
僕の頭から、そいつが有名人ということは吹き飛んでいた。我を忘れてつっかかる。 女性ファッション誌で大人気のモデルが、その模様を携帯のカメラで撮影しているのを横目で見ながら…。
僕はその日、メディアでカリスマ! ともてはやされている美容師の結婚式に出席していた。「お前もさ、美容師という商売柄、有名人に顔を売っといた方がいいだろ」と、中学時代からの友だちが気をきかせて、カリスマ美容師の結婚式に出席できるようセッティングしてくれた。会場を埋めるのは、企業人・芸能人・モデル・タレント …頭に大物が付く人ばかり、TV局ごと結婚式場に移動してきたようだ。美容室オーナーとして独立したばかりの僕にとって、この機会はビジネスチャンスだった。それなのに、僕といったら顔を売るどころか、騒動を起こしてしまった。ビジネスチャンスなんて、どうでもいい。知人の顔を潰してしまったこと、迷惑をかけたことが、辛い。
その日の夜、僕が結婚式へ出席できるよう気をまわしてくれた友人に、詫びの電話を入れた。「せっかく、オレのことを思ってくれたのに顔を潰して…スマン」。全然 気にしてないよ、と明るい声で慰めてくれる友人の声が身に染みる。包容力のある彼に比べ、自分は何と、ちっぽけか。
電話を切ってぼんやり考えた。こういう時、カリスマと言われる美容師たちは、笑って流せるのか。嫌なことを言われても、無神経なことをされても、「相手が有名人だから…」と軽く流せるのか。だったら、僕はカリスマには永遠になれそうもない。それがカリスマの条件なら、そんな人種になるのはゴメンだ。
翌日の朝礼。結婚式で騒動を起こしてしまったことをスタッフに報告した。オーナーである自分の大きな失敗を告白するのは勇気がいる。でも言わなきゃ、そう思った。その報告の後、僕はこう続けた。
「カリスマになんか、なんなくたっていい…オレは、aJyuの“親父”だ! aJyuのスタッフが、もっと高い技術と温かい人間性を持てるよう、手本となる親父になる! 時には、世界一頑固で厳しい親父。時には、世界一優しい親父になる! オレは、aJyuの親父になる!!」
そして、スタッフのみんなに、この言葉が届いてほしいと願いながら、最後を力強く結んだ。
「カリスマ美容師と言われる人たちと、考え方や行動を共にしてたんじゃ、戦っている意味がない! オレたちは自分達の可能性にかけよう!!」
この言葉が届いたか、そうでないかは、分からない。でも、僕は何度だって言いたい。
aJyuはカリスマ以上!! を目指しているんだ。そうだろ、みんな?
Profile
山本賢治(やまもと・けんじ)
1972年、福井県生まれ。美容師歴19年。都内某美容室に13年間勤務。その間に渡仏などを経て、原宿・表参道に開店の美容室オープニングスタッフとして参加。2005年4月独立し、原宿駅前に「aJyu」をオープンさせた。
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トータルビューティーヘアサロン
aJyu(アジュ)
高い技術力は前提。マニュアルではない言葉やもてなしで、一人ひとりのお客様と深くおつきあいのできることを大切に考えるヘアサロン。
Tel.03-3479-0524
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