「ほめられる」そのことが、意識や行動に大きな影響を与えることがある。
私は、バブル華やかな頃大学を卒業し証券会社に入社をした。勿論、営業という仕事である。学生時代から営業のアルバイトをしていた私は、営業という仕事については同期に比べて少しばかり自信を持っていた。ところがいざ配属となって仕事を始めてみると思うように成果があがらない。そうこうしているうちに同期は徐々に成果を出し始め、取り残された私は焦りと後ろめたさに気持ちばかりが空回りしていた。
鳴かず飛ばずが4ヶ月も続いた頃には、「そもそも自分は営業には向いていない」とまで考え始め、仕事に対するモチベーションも上がらず毎日が憂鬱だった。
そんなある日のこと、店頭に杖をついた高齢の男性客が来店された。先輩に指示されて、急遽そのおじいちゃんの対応を私が任された(理由は支店内で一番仕事が無かったからである)。ここでドラマならば、「実はこの老人がとんでもない大富豪で、私は成功の階段を昇り始める…」となるのだが、現実はそんなにうまくはいかず、市営住宅にお住まいの年金暮らしのお年寄りだった。株を買うのも初めて、動機はボケ防止だそうで、少額の金額で出来れば良いということだった。店頭で株の買い方や今の市況を私なりに説明した。ぎこちない説明で上手く伝わったかどうかはかなり怪しいものだった。でも説明が一通り終わった時に、おじいちゃんは私の顔を見て笑顔になってこう言ったのである。
「凄いねぇ、さすがプロだねぇ、よく知っているねぇ」その瞬間、私の中で何かが弾けた。それまでの憂鬱な日々、自信喪失の自分、やる気のない気持ち、そんなものは一切吹き飛び、気がつけば夢中になって説明していた。その日からというもの会社でも、通勤中も、夜遅く会社の寮に戻ってからも寝る間を惜しんでがむしゃらに勉強をした。「凄いねぇ、さすがプロだねぇ、よく知っているねぇ」この一言が聞きたくて必死になって情報を集めた。おじいちゃんは毎日のように店頭に現れ、私の説明を真剣に聴いてくれ、その都度、感心してくれるのである。ほめられるのが嬉しくて嬉しくて、ただそれだけで、みるみる知識も情報も増え、説明そのものも格段に上達した。そうこうしているうちに他のお客さまも急激に増え、半年もすると新人ではトップクラスの成績になっていた。
証券会社を退職する時に、おじいちゃんが私のために横浜は桜木町の小さな中華料理屋で送別会を開いてくれた。当時87歳だったおじいちゃんは、涙で目を潤ませながら、震える手でビールを私に注いでこう言ったのである。「大林さんが担当してくれて良かった。本当に良かった。」後にも先にも社会人になって人前で大泣きしたのはその時だけである。嬉しさよりも悲しさよりも、悔しい気持ちで一杯だった。自分にもっと知識があれば、能力があれば、この人を儲けさせることが出来たのに、自分に力が無いばかりにいい思いをさせてやれなかった自分への不甲斐なさが、悔しくって、悔しくって涙が止まらなかった。
今でもあの時の気持ちとビールの味は忘れない。振り返るとあれが私の「ビジネスの原点」。私たちは、人からほめられて感謝された時にビジネスの喜びを知り、自分の不甲斐なさを思い知り悔しいと感じた時に成長が始まるのだ。
Profile

大林伸安(おおばやし・のぶやす)
株式会社ノビテク
代表取締役 やれる気請負人
一昨年、日本一の規模の研修実施プロジェクトを講師側総責任者としてマネジメントし、完遂させる。研修講師としても大手企業を中心に100社以上、経営幹部から新入社員まで、何万人もの受講実績がある。“やれる気請負人”として教育やコミュニケーションの促進により組織や人材のやれる気を引き出す。
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・07.06.25
神田へ移転しました。
〒101-0044 東京都千代田区鍛冶町1-3-1 マレ神田ビル9階
Tel:03−5209−1107
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