No.19 吉川晃司 アーティスト

吉川晃司にインタビューして意外だったことがある。彼は何かあるごとに「すみませんね」という言葉を発する。若い時から脚光を浴び続けてきた人間がなぜ、ここまで謙虚な雰囲気を醸せるのか。表だって言葉にしたことはないとしても、彼は見えないところで、すさまじいまでの苦悩を克服してきたのだと想像する。痛みを知る人間だからこそ、たどり着く事のできる場所を彼は知っている。
PROFILE
吉川晃司(きっかわ・こうじ)
高校時代、3年進級を目前に中途退学。プロミュージシャンの道を決意。自己推薦文を大手芸能事務所に送ったことをきっかけに所属が決定。1984年デビューシングル「モニカ」発売。ヒットチャートをかけ上り、数多くの音楽賞を授賞。その後、ソロ活動はもとより、映画主演や他アーティストとのコラボレートなどを行い、20年以上に渡り国内音楽シーンの最前線で活躍。2007年春、約4年ぶりとなる待望のニューアルバム「TARZAN」をリリース。
大人の「世間は甘くねえぞ」に対し「お前が甘かっただけなんじゃないの」
——デビュー当時から吉川さんをずっと見てきて感じるのは、どんな局面でも自分の信念を曲げない姿勢。信念を通すということを常に強く思っているんですか。
吉川「そんなに堅っくるしく考えてはいないんですけど、信念ということでいえば、世の中に迎合したら終わりだなって想いはデビュー前からあったし、今もあります。例えば、『世間は甘くねえぞ』ってガキの頃、大人によく言われるじゃないですか。僕が高校を中退して上京する時もね、『世の中そんなに甘くねえぞ』っていちいちね、どいつもこいつもそれを言ってくるわけですよ。それに対して、僕は正直、『お前が甘かっただけなんじゃないの』って思ってた。ガキだったから虚勢もあったし、反発心を込めてね。でも、そういう部分はその頃とあまり変わらない。世の中に染まった時点でTHE ENDの想いは今も強烈に自分自身の中にあります」
——世の中に染まらないと言っても、吉川さんの場合、独りの殻に閉じこもるというのはないですね。これまでの音楽活動でいうと他ジャンルのアーティストと積極的にコラボをしたり、アンテナが外へ外へ向かっている気がします。様々なコラボ活動を通して得たものって何ですか。
吉川「実は、どんなジャンルの音楽とコラボするかというのはある意味どうでも良くて…ようは人間なんですよ。例えば、山下洋輔さんとコラボした時も、山下さんの人間性に興味があったから一緒にやってみたかった。それで彼がやっていらっしゃったのがフリージャズだったということ。人という部分から始まってるから、いろんなアーティストとコラボすることが自分のモチベーションを上げることにもつながっている。このことはとても重要だと思ってます。人間にとって一番大事なのは、モチベーションを維持できるかなんじゃないですかね。正直、ぶっちゃけた話ね、僕にだって精神的に厳しいなという時はありますよ。でも、そこでどうやって戦闘本能をキープしてやっていけるか…人間のほとんどの部分はそこで決まると思う。モチベーションがバッと上がった瞬間、後は何とかなるもんじゃないですか」
面倒臭そうなことを始めに言ってやらざるを得ない状況にする
——吉川さんが20年以上、第一線で活躍されているのも、きっと、モチベーションとの戦いに妥協しなかった結果なんでしょうね。
吉川「ものを作ったりなんとかっていうのは、ある程度の経験とある程度のセンスがあれば、そこそこのものは作れるんだと思います。あとはどこまで打ち込むことができるか、というモチベーションというエネルギーの差。でも、モチベーションって上げよう、上げようと思ってて簡単に上がるもんじゃないから、自分自身を騙す部分も
必要。良い具合に、ポジティブに現実逃避
するっていうか。泉谷しげるさんとかも実はそうなんじゃないかな。いつも『ばかやろ、このやろ』ってずっと言ってる感じ、すごいよね、あの人も」
——確かに、泉谷さんは、自分で走ってテンション上げている印象がありますね(笑)。
吉川「泉谷さんは、別に人が憎くて『ばかやろ、このやろ』って言ってるわけじゃきっとないですよね。お会いするとすごく良い人だし。でも、いつも『ばかやろ、このやろ』なんですよ。『ばかやろ、このやろ』の精神はモチベーションを上げることにつながると思いますね。いや本気で」
——先程、コラボがモチベーションアップにつながっているというお話がありました。他に吉川さんのモチベーションアップに役立っていることってありますか。
吉川「僕の場合、面倒なことを始めに言っちゃってやらざるを得ない状況にするっていうのはありますね。『あいつかっこ悪い』『あいつバカじゃないの』と言ってしまうことで、その『あいつ』よりもやらないとまずいというか。あとは、すごいな、と思える人間と会うことですかね」

















